
忠清南道は全国的に伝統酒の名人が多いことで有名です。土地の特産品を利用したものはもちろん、多 様な製造法で造った伝統酒は忠清道の粋と特色を感じさせてくれます。
花や葉を使用した香り高い加香酒は忠清道を代表する伝統酒です。代々継承されて来た宗家の真心が込 められた秘法とともに誕生した背景やお酒にまつわる伝説などを知って味わうと過去のソンビ(儒学者) たちが一杯の風情を楽しんだ気持ちをさらに香り高く実感できることでしょう。
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韓山素谷酒は古代百済の地であった忠清南道韓山面 において村ごとに自家製の酒として継承して来た伝統 酒です。百済の宮中酒として百済滅亡後に遺民たちが 亡国の悲しみを忘れるために造りたしなんだと伝えら れています。1500年を超える歴史を持つ、文献上最も 古い伝統酒です。
素谷酒はうるち米ではなくもち米だけを用いて造るた めに基本的に甘みとコクが強く、アルコールの味があ まり感じられません。18度も度数があるにもかかわら ずグイグイと喉を通り、特有の風味豊かな酒です。とて も美味しいので我を忘れて飲み続けているうちに起き 上がることが出来ないほど酔ってしまうことから「アン ジュンペンイ(寝坊すけ)酒」とも呼ばれています。



鶏龍百日酒は元来朝鮮王室でのみ造った宮中酒で したが、仁 いんじょ 祖が仁祖反正(光海君を廃位し仁祖を王 位に就けた政変)の最大の貢献者だった李 いぎぃ 貴の功 績をたたえ、彼の婦人に百日酒の製造法を伝えまし た。以降400年以上にわたり延 よなんいし 安李氏の家門にて 代々その秘法を受け継ぎながら製造し、国王に献 上したと言われています。現在は延安李氏の集姓 村(同じ家門の人々が集まって形成された村)である 公州市鳳 ぽんじょんどん 亭 洞地域で15代にわたり受け継がれて います。民俗酒として初めて韓国観光銘品に指定さ れ、南北首脳会談の晩餐酒にも選ばれました。
「鶏龍百日酒」とは近隣に名山の鶏龍山があり、も ち米を使い100日間熟成させることにちなんで名付 けられました。


沔川杜鵑酒はツツジの葉を使って造る酒でやわら かでコクがあり、料理との相性もよく、2018年の南 北首脳会談の晩餐酒として供されました。
高麗王朝開国の功臣だった卜 ぼくちぎょむ 智謙が沔川で病気 に罹り、どんな薬を飲ませても良くなりませんで した。これに対して彼の娘の影 よんらん 浪が百日参りをお こなったのですが、最後の日に夢に山神霊が現れ ました。その山神霊曰く「蛾 あみさん 眉山のツツジの花と ア 内 井 ンセムの水で杜鵑酒を造り100日後に父上に差 し上げ、前の野原に銀杏の木を二本植えて、心を込 めて看病すれば父上の病はよくなろう」とのことで した。影浪はその通り父親に杜鵑酒を差し上げた ところ、病が治ったという親孝行の伝説が残ってい ます。この話に出て来るアンセムは今日沔川邑城の 中に保存されており、その時植えた銀杏の木も沔 川名物として残っています。


中原清明酒は1年の24節の一つである清明日(新暦 4月5・㏥頃)に飲むために造られた民俗酒です。実 学者の李 いいく 瀷は「私は生涯清明酒を最も好み、清明 酒の醸造法を忘れないように記録する」と述べ、 最高の酒として評価しました。
清明酒を造る方法は地域によって違いますが、その 中で忠州の中原清明酒が誉れの高い酒です。中原 清明酒は朝鮮王朝期に漢江上流に帆掛け船が集ま る物流の中心だった忠州を往来する人々が喜んで 飲むようになり、客の接待や祝祭日や祭祀に利用 する酒として宮中にも献上されました。特に中原清 明酒を飲むと科挙に合格するといううわさが立ち、 科挙を受けに行くソンビ(儒学者)たちが清明酒を飲 みにわざわざ忠州に集まったという逸話が残って います。